本研究プロジェクトは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)」において、2022(令和4)年度に採択されました。
RISTEXでは、SDGsの達成に向けて、複合的で幅広いテーマの地域課題に対して既存技術シーズを活用した即効性のあるソリューション創出やソリューションの他地域展開を目指す研究開発プログラムとして、2019年度より「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE for SDGs)」を実施されています。
社会的孤立・孤独はSDGsの重要な観点の一つであることから、SOLVE for SDGsの下で特別枠(社会的孤立枠)として、「社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築」が2021年度に設定されました。(出典:https://www.jst.go.jp/ristex/funding/solve-koritsu/index.html)

プロジェクト名

社会的養護経験者の社会的孤立を防ぎ、支援と繋がりながら自立を支える仕組みを創る

プロジェクト概要

本プロジェクトでは、社会的養護経験者が支援者とつながり続けられる仕組みを構築し、インケアからアフターケアへの切れ目ない支援体制を実現することを目指しています。

具体的には、

①自立目前の児童養護施設入所児童、里親委託児童、社会的養護経験者、支援者、職親などへの実態調査と分析から社会的孤立・孤独に陥るリスクの可視化と、

②生活状況などをチェックする指標など(評価手法)を開発するとともに、孤立と対極にあるつながりを可能とする要素を描出します。並行して、

③社会的養護経験者と支援者が安全につながり、連絡調整できるモバイルメッセンジャーアプリケーション(アプリ)を開発します。

この①から③までを一体的に実施していく中で、モニターによるアプリ試作品の試行とヒアリングに基づき、アプリ試作品のバージョンアップを重ねながら、都市部と地方の2地域において試行し概念実証を行います。

そして、社会的養護経験者が安心できる支援者に相談でき、必要な時に社会資源とつながれる仕組みを構築することが本プロジェクトの最終目標です。

解決すべき社会的孤立・孤独の予防に係る具体的な問題とプロジェクトの目標

児童養護施設等で暮らした子どもの退所後の実態把握を目的とした初の全国調査結果(2021年4月30日厚生労働省発表)では、施設等のサポートを受けていない者は5人に1人に上り、「孤立している実態」や「長期的な見守り・支援に向けた課題」が明らかになりました。社会的養護という制度によって居場所を得ていた子ども達は、原則18歳を年限として自立を余儀なくされますが、自立後を支えるアフターケア制度は十分に整っていません。調査対象者全体のうち、本人に調査案内が届いたのは35.7%で、残りは本人に届いていません。調査案内が本人に届かない主な理由には、施設や里親が社会的養護経験者の住所や連絡先を知らないことが挙げられ、多くの若者と支援者とのつながりは途切れてしまっている状況が浮き彫りになりました。アフターケアの大前提として、社会的養護経験者との繋がりを維持しなければなりません。

そこで本プロジェクトでは、この根本的な問題を解決し、インケアからアフターケアへの切れ目ない支援を可能にするための仕組みの構築を目標としています。

本プロジェクトにおける3つの研究開発要素の概要

研究開発要素①「社会的孤立・孤独メカニズム理解と、社会的孤立・孤独を生まない新たな社会像の描出」

子ども達の多くは18歳前後の若さで頼れる親が不在な中の自立となり、退所直後に様々な困難が生じ支援が必要となります。しかし現場支援者のマンパワーの薄さや業務の多忙さ、早期離職等のため、入所中と同様な関わりの継続は困難な状況にあります。このように児童福祉から離れた時に支援のネットワークが途切れ、制度の狭間に落ちてしまう現実があります。本事業では、この制度の穴を埋める新しい仕掛けとして繋がりを継続できるツールを開発し、社会的孤立・孤独を生まない社会像を描出していきます。

研究開発要素②「人や集団が社会的孤立・孤独に陥るリスクの可視化と評価手法(指標等)の開発」

子ども達が自立直前に抱く不安、自立後に直面する困難、相談しにくい状況、メンタルヘルスや社会的スキル、周囲の環境とどの程度繋がれているのか等をチェックする指標を開発します。

研究開発要素③「社会的孤立・孤独を予防する社会的仕組み」

家庭と繋がりながらの自立が一般的ですが、現在、制度上の困難があります。そこで開発するモバイルメッセンジャーアプリケーション(きずなコネット)を用いて、安全に社会資源と繋がれる仕組みを構築し、都市部及び地方の2地域において概念実証を行います。

メンバー

ーーー 研究代表者 ーーー
支援体制開発/マネージメントグループ

代表者・グループリーダー

宮地 菜穂子

Naoko MIYACHI

社会福祉士・保育士

同朋大学准教授(子ども家庭福祉学)

アプリ開発グループ

グループリーダー

辻井 正次

心理学者

中京大学教授(発達臨床心理学)

自立支援運営グループ

グループリーダー

岩田 正人

児童養護施設 施設長

名古屋文化キンダーホルト(社会的養護)

福島支援運営グループ

グループリーダー

安部 郁子

公認心理師・臨床心理士

福島大学特任教授(臨床心理学・福祉心理学)

メンバー・専門家

明翫 光宜

公認心理師・臨床心理士

中京大学 心理学部 教授

曽我部 哲也

メディアアーティスト

中京大学 工学部 准教授

鈴木 勝昭

精神科医師

宮城県子ども総合センター 附属診療所

石川 道子

小児科医師

NPO法人アスペ・エルデの会 臨床統括ディレクター

武庫川女子大学発達臨床心理学研究所 嘱託研究員

高柳 伸哉

公認心理師・臨床心理士

愛知教育大学心理講座 准教授

浜田 恵

公認心理師・臨床心理士

中京大学心理学部 准教授

伊藤 大幸

お茶の水女子大学基幹研究院 人間科学系 准教授